生きる記録

feel so good

梅、1㎏598円

その家では毎年梅ジュースを漬けていた。

孫たちがお酒を飲めないし、彼女自身もお酒を飲まないため、梅酒が漬けられることはなかった。

f:id:manahero:20190620232350j:image

毎年田舎から送られてくる梅を使って、孫たちと作る時間が幸せだった。

 孫たちを集めて、6月の梅の盛りに漬けた梅のジュースが飲めるようになるのが8月頃。夏休みに遊びに来た子達に振舞うのに丁度よいのだ。

 

「ヘタを取ったら穴を開けるんだよ。フォークを使って、ケガをしないようにね」

「分かったー!!!」

3キロの梅をすべて仕込むのに、小学校低学年の手では時間がかかる。だが、楽しそうにやっている子の楽しみを奪うわけにはいかない。邪魔をしないように、自分も手伝っている体を出せるように、一生懸命な様子を眺める。

「おばーちゃん!これ傷ついてるからポイしよ」

ちゃんと一人で捨てるべき梅の選定まで出来るようになってきて頼もしい。

 

漬け終わって数日間は氷砂糖の溶け具合の確認と攪拌を兼ねて瓶を回転させる必要がある。まだか、まだ溶けないかと楽しみにしている孫に、何度も「夏休みになってからだよ」と言い聞かせる。その場では聞くのに、次の日には忘れるようだった。

 

 

そんな孫も、一人暮らしを始めた。梅ジュースは作らなくなってもう何年も経つ。

中学に上がったころから家で作った飲み物をあまり飲まなくなり、高校では家でご飯を食べる回数も減った。こうして、孫が大きくなっていくのは、悲しいような、嬉しいような。

 

ひとり暮らしを始めた孫から、連絡がきた。

「今年は、梅酒を漬けたよ。ジュースよりよっぽど時間が掛かるんだね」

 

==SIDE 孫==

今年は梅酒を漬けたくなった。きっかけはなんだったか覚えていない。きっと飲み会での会話だとかテレビでの特集だとか些細なことだ。

しばらく梅を見かけるたびに買いたいな、と思ってはいたんだけれど、なかなか高くて手が出ない。小さい頃はおばあちゃんと一緒に大量の梅を仕込んだんだけど、あれ高かったんだな。

 

今日、スーパーでふと見た梅が1㎏で598円だった。前に見たところより安く、このくらいなら買ってもいいかと思える価格だった。

とはいえ、梅を買った後から漬けるお酒の方が高くつくだとか保管場所が大変だとか問題は発生したわけだけど。

 

自分一人で梅酒を漬けようと思って、驚いたことが三つある。

まず一つ目。さっきもあった通り、梅は意外と高かった。いや、1㎏で1000円しないくらいだし、これくらいさくっと買えるのかもしれないけど。一人暮らし始めたばかりではちょっと思い切れない出費だ。

次に、買った方が安い。梅酒なんて2Lの紙パックで買えば、2000円でおつりが来るだろう。家で漬けるのなんて時間も手間もかかるのにさらに高いのかってちょっと落ち込んだ。

最後に、梅ジュースとの違い。穴は開けないし時間は倍かかるってこと。

 

夏休みには友達を誘って梅酒を安く飲めるかと思っていたんだけど、とんだ計算外れだったみたい。おばあちゃんの家で梅ジュースなんて漬けなくなって久しいけど、今年の夏は遊びに行こうかな。

とりあえず後で電話しなきゃ。

 

「今年は、梅酒を漬けたよ。ジュースよりよっぽど時間が掛かるんだね」

 

 

 

と云う事で、実家では毎年祖母を手伝って梅ジュースを漬けていた彼女ですが、今年は彼氏君と一緒にブランデーで梅酒を漬けました。

来年?冬?が楽しみです。クリスマスに梅酒パーティー出来るね!